この連載では、福島民報社の朝刊にて6回に渡り掲載された株式会社SATORU 海野によるエッセイを、写真を交えて改めてご紹介させて頂く企画です。
第4回は、身近にある「当たり前」を疑い、常に新しい刺激や発見を求めることの大切さを、自分の体験を以って気付いていった時のお話しです。
1.タイムマシンに乗ったかのような感覚。
私が昭和村に居を移すことを決めた時、周囲の理解を得ることが最大の壁でした。三十歳にもなるいっぱしの大人が、秘密基地をつくるなどと言い出したのだからそれも無理はない。しかも説明がヘタときたものだから、周りは理解に苦しんだと思います。前職の上司は、ゆとり世代の考えることは分からないといった感じでした。
昭和村に住むという話をしただけで、もう二度と会えないかというくらい驚かれたこともあれば、村に住んでいるというだけで、異世界から来た人のように見られることも少なくはありません。
現在は昭和村に住みながら、最低でも月に一度は幾日かの間、東京都内に滞在しています。仕事柄、都内からの仕事を請け負っているという面が大きいのですが、山村と都市部を往来するこのサイクルが、自分たちにとってメリットとスパイスを与えていることは明らかです。
三時間も車を走らせれば違った文化や方言、人柄があって刺激が絶えません。特に、手つかずの自然や昔ながらの生活文化が残る昭和村と、新しいビルやトレンドが生まれ、歩けば何百人と知らない顔と擦れ違い、常にアップデートされていく都心部のギャップは、大げさに言えばタイムマシンに乗ったかのようです。
隣家の見守りが特徴的な昭和村では、数日家を空ける時に声を掛けると「ちゃんと電気消してけよー」と促してくれることにも、毎度温かさを感じずにはいられません。身を持って体感しているこのギャップは、広い知見を得ることができると同時に、多くの人との出会いや自分を見つめ直す機会にもなっています。
2.それぞれがそれぞれの『当たり前』。
地方と都市部の良いところはそれぞれあって、それぞれの当たり前は一方では当たり前でないことが多分にあります。そして双方の良いところは、生活になじんでしまうと見失いがちになります。
田舎の良さも知ってもらいたい私たちとしては、ここにどんな魅力を感じるのかを忘れてはいけないし、最初に感じたワクワクを大切にしたい。それでも既に、村外から来た人の話を聞くと、いつの間にか凝り固まってしまっていた自分にハッとさせられることがあります。常にアンテナを張っているつもりでも、違う視点からの見え方は貴重です。
3.新しいものが生まれる瞬間。
私が社会に出て都内に勤め四年がたったころ、当時常連のお客さまが「当たり前を疑いなさい。新しいものはそこから生まれる」と言い残されていきました。間もなく私はその会社を退職したため、その真意を聞くことはできませんでした。頭の隅っこに寄せられていたその言葉の意味が、何となく理解できるようになったのは、それからずっと後のことです。
ステレオタイプに縛られないことから新しい気付きが生まれます。自分たちが目指しているものが形になっていくまでは、何をしているか分からないと色眼鏡で見られることもしばしばあるかもしれませんが、形になっていけばきっと納得してもらえることを信じて継続していきたいと思います。
ゆくゆくはその姿を見て「なるほどそういうことか」と悟ってもらえることが、私たちの社名の由来の一つにもなっています。
(※この記事は、2019年3月8日に福島民報社にて掲載された記事の転載となります。)
◆第1回 『住めば都』。
◆第2回 『秘密基地づくり』。
◆第3回 『世代を超えて歩み寄る』。
◆第5回 『地元を想う』。
◆第6回 『宝探し』。